家づくりって夢がありますよね。
家を建てるにしろ、中古住宅を買ってリフォームするにしろ、自分の城をつくるのはワクワクします。
あんな家がいいな…
こんな家がいいな…
いろんな雑誌を見たり、カタログを見たり、想像を膨らませます。
一方で、多くの場合は予算の壁にぶち当たります。
銀行から融資を受けて家づくりをする方がほとんどだと思いますので、返済可能額からその予算が決まってきます。
予算の範囲に収まるように、やりたいことを取捨選択しなければなりません。
では、どのように優先順位をつけて整理していけばいいのでしょうか。
【結論】「見えないところ」を優先すべし
結論としては、「見えないところ」にかかるお金を確定させ、残りの費用を「見える部分」に振り分けることをお勧めします。
「見えないところ」を言い換えると「住宅の性能」です。
人は、見えるところにお金をかけがちです。
見えるところというのは、壁紙や扉などの内装、キッチンやお風呂、トイレなどの設備関係です。
確かに、きれいな内装や機能が充実した住宅設備に囲まれた暮らしは、誰でも憧れます。
でも、落ち着いて考えてみてください。
内装や住宅設備は、劣化します。
また、その時は最新の機能を持った住宅設備かもしれませんが、すぐにその機能は一般化され最新ではなくなります。
そして、内装や住宅設備は後から交換可能です。
古くなったら新しくすることができます。
一方で、一度決めたら簡単には変えることができないのが「見えないところ」=「住宅の性能」です。
「住宅の性能」とは次のものです。
- 耐震性能
- 断熱性能
- メンテナンス性能
これらのものは、後から変えようとした場合、大きな労力と経済的な負担が生じます。
ですから、最初に「見えない部分」にかかる費用を確保することが重要なのです。
耐震性能
耐震性能は、基礎、土台、柱、梁など、住宅という建築物の根幹となる部分の性能です。
住宅を新築しようとする場合は、現行の建築基準法に適合させなければいけません。
よって、大地震でも倒壊しない性能は有しています。
一方で、ここで注意していただきたいのは、建築基準法で定めているのは「倒壊しない」ことであって「損傷しない」ことではないということです。
「居住不可能な状態まで損傷するかもしれないけれど、倒壊して人が押しつぶされるような状態にはならない」というのが、建築基準法で定める性能です。
建築基準法で想定している地震は、概ね「100年に1度遭遇するかどうか」という地震です。
震度で言えば6強から7程度です。
大地震で家が損傷してもそれはしょうがないという考え方もできます。
地震保険で備えるという方法もあるでしょう。
ここで言いたいのは、後から耐震性能を向上させるのは労力とお金がかかるということです。
耐震性能は壁の中の構造部分の性能ですから、それを向上させるには大掛かりな工事が必要になるからです。
断熱性能
断熱性能は、壁や床、天井などの断熱材の種類及びその厚さや、窓や扉の断熱性能で決まります。
よって、耐震性能と同様、後から向上させようとすると大掛かりな工事になってしまいます。
また、断熱性能は光熱費に関係するだけではなく、そこで生活する人の健康にも影響があることが分かっています。
- 断熱性能等による居住者の健康への影響調査中間報告(第7回報告会)
- 一般社団法人日本サステナブル建築協会の調査によると、断熱性能の向上と居住者の健康との関係について、次のことが分かってきています。
・ヒートショックの防止
・高血圧症の防止
・循環器疾患の予防
・過活動膀胱症状の予防
・身体活動の活性化
https://www.jsbc.or.jp/document/index.html
断熱性能は、将来の経済的負担と健康を左右するということを認識しておく必要があります。
断熱性能のレベルについては、別の記事でまとめていますので、そちらをご覧ください。
メンテナンス性能
住宅設備や内装については交換可能であることは前述しました。
ただし、実際に交換が可能かどうかは、交換を前提として設計されているかどうかによります。
モノはいつか壊れます。
その前提を忘れてしまっていると、いざ交換が必要となった際に大きな負担を強いられることになります。
特に住宅設備関係は定期的なメンテナンスが必須ですので、交換が可能な設計にしておくべきです。
また、屋根や外壁などの外回りは、風雨や直射日光、寒暖差など、過酷な環境にさらされています。
よって、定期的に塗り替えや張替え等のメンテナンスが必要になりますが、あらかじめ耐久性の高い材料を使用しておき、メンテナンスの頻度を低減させるという考え方もあります。
もう一つ重要な視点は、人の生活スタイルは変わるということです。
家族構成が変わったり、年齢によって体の状態も変わってきます。
そのことをあらかじめ考えておかないと、そもそも対応できなかったり、対応するには経済的な負担が大きくなってしまいます。
もちろん、想定外のこともあります。
ただし、想定可能なことについては、そうなった場合に備えて、あらかじめ設計に反映させておくべきです。
「長期優良住宅」の基準が目安
これまで、「目に見えない部分」を優先的に決めることが重要であることを述べてきましたが、「目に見えない部分」にどこまでお金をかければいいのでしょうか。
これについては個人の価値観もありますので一概には言えませんが、ひとつの目安として「長期優良住宅」の基準があります。
長期優良住宅は、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づくもので、「長期にわたり良好な状態で使用するための措置講じられた優良な住宅」です。
長期優良住宅は、次の基準を満たした住宅になります。
住宅の構造および設備について長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること。 - 住宅の面積が良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること。
- 地域の居住環境の維持・向上に配慮されたものであること。
- 維持保全計画が適切なものであること。
- 自然災害による被害の発生の防止、軽減に配慮がされたものであること。
「目に見えない部分」の性能に関する部分は①の基準になります。
①では、具体的に次の項目について基準が設けられています。
- 劣化対策
- 耐震性
- 可変性(共同住宅等のみ)
- 維持管理・更新の容易性
- 高齢者等対策(共同住宅等のみ)
- 省エネルギー対策
項目を見て分かるとおり、すべて「見えない部分」に関係するものです。
例えば、耐震性については、建築基準法レベルの強さを1とすると、長期優良住宅のレベルは1.25(R4.10.1以降)です。
その他の項目についても、住宅を長期に渡って使い続けられるように配慮された基準が設定されています。
ただ、省エネルギー対策については、ZEH基準が設定されていますが、さらに上の基準をクリアしたいところです。
ちなみに、長期優良住宅は、自治体から認定を受けると、税制優遇を受けられます。
住宅は、「見えない部分」が重要です。
「見えない部分」は後から変えることが難しいので、優先的に確定させ、予算を配分することをお勧めします。
とある北寄りの地方で、建築職の地方公務員として20年以上の勤務経験があります。
住宅の性能に着目した家づくりの重要性についてお伝えしています。
【保有資格:一級建築士・(特定)建築基準適合判定資格者】