最近、「脱炭素」、「2050年カーボンニュートラル」なんて言葉がよく聞かれるようになってきました。
地球温暖化対策として、温室効果ガスの代表である二酸化炭素の排出量を減らそうという取り組みです。
その中で、住宅についても、省エネ化の波が押し寄せています。
- 省エネ住宅はいつから始まった?
- 住宅の省エネ化については、実はかなり昔から考えられてきてはいました。
住宅の省エネ化に係る基準が初めて作られたのは、1980年(昭和55年)です。
その時の基準が元祖「省エネルギー基準」であり、省エネ住宅はここからスタートしています。
その後、平成4年に改正された基準が「新省エネルギー基準」と呼ばれ、平成11年に改正された基準が「次世代省エネルギー基準」と呼ばれてきました。
現在の住宅の省エネ基準は、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(略称:建築物省エネ法)」に基づきますが、断熱性能のレベル的には平成11年の基準(次世代省エネルギー基準)と変わりません。
そして、現時点でも、住宅の省エネ基準は義務化されていません(2025年までに義務化が予定されています)。
(一定戸数以上の住宅の販売事業者は義務みたいなところはありますが…)
よって、どのレベルの省エネ性能を有する住宅を建てるかは、建て主の裁量にまかされています。
令和3年4月1日からは、建築士法の改正により、住宅の省エネ性能を建築士が建て主に説明することが義務化されているので、どのレベルの省エネ性能の住宅を設計したのかは、建て主側で把握することができるようになっています。
それでは、住宅の省エネ性能のレベルはどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、住宅の省エネ性能のレベルについて解説していきます。
エネルギー消費性能基準
まずは、現行の建築物省エネ法が規定する「エネルギー消費性能基準」に適合するレベルです。
2025年までに、住宅についてこの「エネルギー消費性能基準」への適合が義務化されることが予定されています。
よって、今から住宅を建てるのならば、最低限この基準をクリアした住宅とすることを強くお勧めします。
なお、住宅の省エネ性能は、次の2つの数値により判断されます。
- 住宅の壁や窓などの外皮の性能(UA値・ηAC値)
- 住宅の設備機器等の一次エネルギー消費量(BEI値)
「エネルギー消費性能基準」では、これら2つの数値について、どちらも満たすことが必要です。
簡単に説明すると、UA値は住宅の断熱性能(屋内の熱がどれだけ外に漏れるか)の値、ηAC値は日射遮蔽性能(屋外からの熱が屋内にどれだけ入ってくるか)の値です。
言い換えれば、UA値は冬の寒さからどれだけ守ってくれるか、ηAC値は夏の暑さからどれだけ守ってくれるかという数値です。
用語の解説
UA値:断熱性能(屋内の熱がどれだけ外に漏れるか)
ηAC値:日射遮蔽性能(屋外からの熱が屋内にどれだけ入ってくるか)
これらの数値は、地域により基準が異なります。
地域は8つに分かれており、寒い順番にⅠ地域からⅧ地域まであります。
UA値は、Ⅰ地域が最も厳しい数値であり、順番に緩くなります。
ηAC値は、夏の暑さが厳しくないⅠ~Ⅳ地域までは設定がなく、Ⅴ地域からⅧ地域までにそれぞれ設定されています。
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | Ⅷ | |
UA値 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | ― |
ηAC値 | ― | ― | ― | ― | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 3.2 |
BEI値は、UA値・ηAC値を考慮した上で、住宅の設備機器(暖冷房・換気・照明・給湯・家電等)が使用するエネルギー量を算定し、太陽光発電等で創出されるエネルギー量を減じたものを、基準となるモデル住宅の使用エネルギー量で除した値であり、これが1.0を下回ればOKです。
基準となるモデル住宅の使用エネルギー量よりも少なくなればいいということです。
用語の解説
BEI値:住宅のエネルギー使用量/基準となるモデル住宅のエネルギー使用量
誘導基準・住宅事業建築主基準
実は、建築物省エネ法には、ベースとなる「エネルギー消費性能基準」の他に、次の基準も設定されています。
- 誘導基準
- 住宅事業建築主基準(トップランナー基準)
これらの基準は、外皮性能については「エネルギー消費性能基準」と変わりませんが、BEI値がより厳しい値となっています。
BEI値の基準 | |
エネルギー消費性能基準 | 1.0以下 |
誘導基準 | 0.9以下 |
住宅事業建築主基準(建売住宅) | 0.85以下 |
住宅事業建築主基準(注文住宅)※ | 0.75以下(当面の間は0.80以下) |
誘導基準を満たした上で認定を受けると、容積率の特例を受けることができたり、認定住宅であることを表示できたりします。
住宅事業建築主基準は、一定戸数以上の建売住宅を販売、若しくは注文住宅を供給する事業者が満たすべき基準です。
よって、大手ハウスメーカーが販売又は供給する住宅は、このレベルの省エネ性能を有しているということになります。
※注文住宅は、2024年度以降に当該年度に供給する住宅について、平均でBEI値の基準を下回ることが求められています。
ZEH(ゼッチ):ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス
上記の「エネルギー消費性能基準」「誘導基準」「住宅事業建築主基準」は法律上の位置付けがあるのですが、これまでZEHについては、法律上の位置付けがありませんでした。
しかし、令和4年4月1日から、住宅性能表示制度における評価方法基準に、ZEH水準の等級(断熱等対策等級5、一次エネルギー消費量等級6)が位置付けられています。
ZEHの定義としては、「快適な室内環境を保ちながら、住宅の高断熱化と高効率設備によりできる限りの省エネルギーに努め、太陽光発電等によりエネルギーを創ることで、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)で概ねゼロ以下となる住宅」(H27.12.17経産省ZEHロードマップ検討委員会)とされています。
具体的にはどの程度の高断熱化が必要かというと、UA値について「 エネルギー消費性能基準 」よりもさらに高いレベル(強化外皮基準)が求められています。
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | Ⅷ | |
エネルギー消費性能基準 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | ― |
強化外皮基準 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | ― |
また、高効率設備を導入し、一次エネルギー消費量を20%以上減らす必要があります。
つまり、太陽光発電等の創エネルギー分を除いたBEIが0.8以下となる必要があります。
さらに、残りの0.8分のエネルギーを太陽光発電等により創り出すことで、正味でゼロエネルギー(BEI≦0)以下となる住宅がZEHということです。
基本的なZEHはこのとおりなのですが、ZEHには他にいくつか種類があります。
- Nearly ZEH
- ZEH Oriented
- ZEH+
- 次世代ZEH+
なお、これらについては、国が行う補助事業における分類になります。
それでは順番に見ていきましょう。
Nearly ZEH・ZEH Oriented
都市部の狭小住宅の場合、屋根面積が小さいことから必要なエネルギーの創出が物理的に不可能な場合があります。
このような条件の場合に配慮した基準で、正味で75%以上省エネルギー化が図られたもの(BEI=0.25以下)が、Nearly ZEHです。
さらに条件が厳しく十分なエネルギーを創り出せない場合は、創エネルギー分を加味しないものとしてZEH Orientedがあります。
断熱性能や、創エネ分を除いた一次エネルギー使用量の20%削減は、通常のZEHと同じです。
ZEH+・次世代ZEH+
ZEHよりもさらに強化した断熱性能、及び、建築設備の省エネルギー化により、創エネ分を除いた一次エネルギー消費量を25%以上削減した上で、次のうち2つ以上を実施し、かつ、創エネ分で正味でゼロエネルギーとなるものが、ZEH+です。
- 外皮性能のさらなる強化
- 高度エネルギーマネジメント(HEMSなど)
- 電気自動車への充電
また、ZEH+に加え、次のいずれかを導入したものが、次世代ZEH+です。
- V2H設置
- 蓄電システム
- 燃料電池
- 太陽熱利用温水システム
V2Hというのは、電気自動車に充電された電気を住宅の電源として使用できるようにする設備のことです。
LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅
LCCM住宅とは、「ライフサイクルを通じてのCO2の収支をマイナスにする」住宅のことです。
つまり、建築時から廃棄時までのトータルでCO2の排出量がマイナスになる住宅ということです。
ZEHは使用段階のみでゼロエネルギーとなればいいのですが、LCCM住宅は、建築時・修繕時・更新時・廃棄時のトータルでCO2の収支をマイナスにする必要があります。
よって、LCCM住宅は当然ZEHが前提となるのですが、例えば使用する建材について、化石燃料を使用しないで製造した建材を使用するなどする必要があります。
LCCM住宅はCO2の排出が建築時から廃棄時までトータルでゼロになりますので、究極の省エネ住宅ということになりますね。
ZEH、LCCM住宅の建築には補助制度があります
「脱炭素」「2050年カーボンニュートラル」は、日本として世界各国に表明している関係もあり、強力に推し進めています。
この関係で、ZEH、LCCM住宅の建築に際しては、国の補助金を活用できます。
自治体によっては追加で補助制度を準備しているところもあるようです。
ZEHやLCCM住宅は、建築時のコスト(イニシャルコスト)はかかりますが、使用エネルギー量が抑えられますので、運用段階のコスト(ランニングコスト)は下がります。
また、高断熱住宅は室内の温度を一定にすることができますので、体への負担が小さいことも分かっています。
今から住宅を新築しようとする場合は、最低限「エネルギー消費性能基準」は満たすことをおすすめしますし、ZEH、LCCM住宅もご検討ください。
住宅は個人の所有物ではありますが、建築時や使用時には地球環境に影響を与えるCO2を排出していることを認識し、次の世代にツケを回さないよう、その省エネ性能について十分考える必要があります。
ZEHを超える断熱性能「HEAT20」
この基準は、「一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」が提唱する基準で、大手ハウスメーカーの中には、この基準への適合をPRしているところもあります。
「一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」は、主に外皮性能、つまり、住宅の断熱性能に係る研究・技術開発を行うことを目的としています。
会員には、建材メーカーや大手ハウスメーカー、工務店などが入っています。
HEAT20には、G1、G2、G3の3段階の基準が設けられており、数字が大きくなるにつれて断熱性能が高くなります。
HEAT20は、地域ごとに規定した「住宅シナリオ」を満たすことを目標としており、その目安として外皮性能(UA値)を用いています。
HEAT20が設定する外皮性能は次のとおりです。
省エネ法地域区分 | 1・2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
代表都市 | 札幌 | 盛岡 | 松本 | 宇都宮 | 東京 | 鹿児島 | |
外皮性能水準別外皮平均熱還流率 UA[W/(m2・K)] |
省エネ基準(等級4) | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 |
ZEH(等級5) | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | |
G1水準 | 0.34 | 0.38 | 0.46 | 0.48 | 0.56 | 0.56 | |
G2水準(等級6) | 0.28 | 0.28 | 0.34 |
0.34(0.46) |
0.46 | 0.46 | |
G3水準(等級7) | 0.20 | 0.20 | 0.23 |
0.23(0.26) |
0.26 | 0.26 |
HEAT20は、ZEHを超える外皮性能であることが分かります。
この基準は、まだ一般にはあまり知られていないかもしれませんが、こういった基準があるということは認識しておくべきです。
なお、令和4年10月1日から、住宅性能表示制度における評価方法基準の改正に伴い、G2相当が断熱等対策等級6、G3相当が断熱等対策等級7として位置付けられています。
注)HEAT20と断熱等性能等級では、5地域の数値が異なっています。
自分が住んでいる家の省エネ性能はどれくらい?
これから家を建てようとする場合は、省エネ性能を自分で設定して依頼することができますが、既に建ててしまっている場合は、今住んでいる家の省エネ性能が分からない場合も多いですよね。
今住んでいる家の省エネ性能を知りたい場合で、次の資料があれば、省エネ性能を調べることができます。
- 住宅の平面図
- 住宅の断熱仕様が分かる図面(仕様書、矩計図など)
これらの資料から、住宅の面積や断熱仕様を把握できれば、国立研究開発法人建築研究所が開発したWEBシステム(エネルギー消費性能計算プログラム)を使用して、住宅の省エネ性能を調べることができます。
このWEBシステムは、主にこれから住宅を建てようとする場合で、法律に基く届出や補助金の申請を行うために作られたものですが、既存住宅の省エネ性能を調べる目的でも使用できます。
入力項目については、住宅の面積、天井・壁・床・基礎の断熱性能、住宅に設置されている設備の性能になります。
ちなみに、私の住宅の仕様で計算した結果は次のとおりとなりました。
- UA値:0.53(3地域現行省エネ基準値:0.56)
- BEI値:0.86
現行の省エネ基準とZEH基準の間くらいの性能か…
今回は、外皮面積を用いない手法で算定(外皮面積を用いて算定することもできます)しており、内装下地等を考慮していません(断熱材のみの数値で入力)ので、実際はもう少し性能は高いと思います。
ただ、目安としては使えるので、図面があって断熱仕様が分かる場合は、試してみてください。
一番簡単な入力方法
今回ご紹介したWEBシステムは、外皮性能の評価方法にいくつか方法があるのですが、「当該住戸の外皮面積を用いず外皮性能を評価する(ここで計算)」で行うのが最も簡単な方法です。
入力数値で迷うのは、次の2項目かと思いますので、参考数値を記載しておきます。
・床断熱で基礎が無断熱の場合の基礎の熱貫流率→4.11
・土間床等の外周部の線熱貫流率→1.8
外皮面積を用いて算定したところ、UA値:0.41、BEI値:0.83でした。
HEAT20のG1水準に近い数値ですね。
とある北寄りの地方で、建築職の地方公務員として20年以上の勤務経験があります。
住宅の性能に着目した家づくりの重要性についてお伝えしています。
【保有資格:一級建築士・(特定)建築基準適合判定資格者】