家づくりのアプローチの記事で、住宅の性能は「長期優良住宅+α」とし、+αのうちのひとつが「バリアフリー性能」であることをお示ししました。
建築基準法でも長期優良住宅の認定基準でも、バリアフリー性能については触れられていません。
建築主が何も言わなければ、バリアフリー性能について考慮されていない住宅ができてしまいます。
人生100年時代と言われ、高齢になっても住み続けられる住宅が求められており、これからの家づくりには、バリアフリー性能を確保することも重要な視点です。
ここでは、バリアフリー性能を向上させるために参考となる基準について紹介します。
バリアフリー性能は高齢者等配慮対策等級を参考にする
バリアフリー性能を確保するために参考となる制度が、住宅性能表示制度です。
住宅性能表示制度とは、住宅の性能を設計時や完成時に評価し、見える化する制度です。
住宅性能表示制度は、評価方法基準という基準によって評価し、いくつかの評価項目がありますが、その中にバリアフリー性能もあります。
高齢者等配慮対策等級という評価項目がバリアフリー性能に関するものです。
バリアフリー性能のレベルは5段階
高齢者配慮対策等級は、等級1から5まで設定されており、それぞれ次の水準が設定されています。
等級5 | a 移動等に伴う転倒、転落等の防止に特に配慮した措置が講じられていること。 b 介助が必要となった場合を想定し、介助用車いす使用者が基本生活行為を行うことを容易にすることに特に配慮した措置が講じられていること。 |
等級4 | a 移動等に伴う転倒、転落等の防止に配慮した措置が講じられていること。 b 介助が必要となった場合を想定し、介助用車いす使用者が基本生活行為を行うことを容易にすることに配慮した措置が講じられていること。 |
等級3 | a 移動等に伴う転倒、転落等の防止のための基本的な措置が講じられていること。 b 介助が必要となった場合を想定し、介助用車いす使用者が基本生活行為を行うことを容易にするための基本的な措置が講じられていること。 |
等級2 | 移動等に伴う転倒、転落等の防止のための基本的な措置が講じられていること。 |
等級1 | 移動等に伴う転倒、転落等の防止のための建築基準法に定める措置が講じられていること。 |
この水準から見て取れることは、等級3から「介助が必要となった場合を想定」した措置を講じることが求められているということです。
よって、等級2と等級3でひとつ大きな差がありそうです。
等級3以上の水準はパッと見は同じように見えますが、等級3は「基本的な措置」、等級4は「配慮した措置」、等級5は「特に配慮した措置」という表現になっており、措置のレベルが上がっていることが分かります。
では、これから家づくりをする場合に、どのレベルを設定すればいいでしょうか。
高齢者等配慮対策等級3以上を政府も推奨?
そこで参考となるのが、【フラット35】Sの技術基準です。
【フラット35】は、住宅金融支援機構が販売している住宅ローンです。
一般の金融機関が販売する住宅ローンは長くても10年間固定金利というものが多いですが、【フラット35】は最長35年間の固定金利であることが特徴です。
また、【フラット35】の融資を受けるためには、一定の技術基準をクリアする必要があります。
住宅金融支援機構は政府が100%出資する金融機関であり、「良質な住宅の普及」を目的としている一面もあるからです。
よって、【フラット35】の技術基準を見れば、政府が考える「良質な住宅」がどのようなものかを垣間見ることができます。
中でも【フラット35】Sが最も金利が低く設定されており、技術基準も最も厳しいものとなっています。
金利を下げるというインセンティブを付与することにより、より性能の高い住宅の建築を促していると言えます。
その【フラット35】Sの技術基準において、バリアフリー性能として設定されているのが、高齢者等配慮対策等級3以上なのです。
【フラット35】S 金利Aプラン(10年間金利引き下げ) | 高齢者等配慮対策等級4以上 |
【フラット35】S 金利Bプラン(5年間金利引き下げ) | 高齢者等配慮対策等級3以上 |
自治体が実施する新築住宅への補助金でも、高齢者等配慮対策等級3以上を設定している場合もありますので、等級3以上がひとつの目安ですね。
高齢者等配慮対策等級3・4・5は何が違うのか?
等級3以上を目安として、等級3・4・5は具体的に何が違うのでしょうか。
前述の水準を簡単に表現すると、次の通りとなります。
等級5 | 特に配慮した措置 |
等級4 | 配慮した措置 |
等級3 | 基本的な措置 |
等級3を基準として、等級4及び5はグレードアップしていることが分かります。
各等級毎の具体的な基準をまとめたものが、次の表になります。
タイトル | 等級5 | 等級4 | 等級3 |
部屋の配置 | 玄関、便所、浴室、食事室、脱衣室、洗面所を、高齢者が使用する寝室(特定寝室)と同一階にするか、ホームエレベーターを設置する。 | 便所及び浴室が特定寝室と同一階にするか、ホームエレベーターを設置する。 | 便所が特定寝室と同一階 |
日常生活空間の段差 | ・日常生活空間(高齢者が使用する範囲)内の床を段差のない構造とする。(玄関、勝手口、居室内の小上がり、バルコニーについて例外あり。) ・日常生活空間外の床を段差のない構造とする。(玄関、勝手口、バルコニー、浴室の各出入口、室内の小上がりについて例外あり。) | 等級5の規定から、浴室及びバルコニーの段差に係る緩和の程度が拡大 | 等級5の規定から、玄関、浴室及びバルコニーの段差に係る緩和の程度が拡大 |
階段の構造 | ・勾配が6/7以下 ・けあげの寸法の2倍と踏面の寸法の和が550㎜以上650㎜以下 ・踏込みが30㎜以下で踏込板を設置 ・回り階段禁止、通路への階段の食い込み又は突出禁止 ・踏面の滑り止め防止措置は踏面と同一面 ・段鼻を出さない形状 ・建築基準法の階段の規定に適合 ※ホームエレベーターを設置する場合は緩和 | ・勾配が6/7以下 ・けあげの寸法の2倍と踏面の寸法の和が550㎜以上650㎜以下 ・踏込みが30㎜以下で踏込板を設置 ・建築基準法の階段の規定に適合 ※ホームエレベーターを設置する場合は緩和 | ・勾配が22/21以下 ・けあげの寸法の2倍と踏面の寸法の和が550㎜以上650㎜以下、かつ、踏面の寸法が195㎜以上等 ・踏込みが30㎜以下 ・建築基準法の階段の規定に適合 ※ホームエレベーターを設置する場合は緩和 |
手すりの設置(生活用) | ・階段の両側(700㎜から900㎜の高さ) ・便所の立ち座り用 ・浴室出入り、浴槽出入り、浴室内の立ち座り・姿勢保持、洗い場の立ち座り ・玄関の上がりかまち部 ・脱衣室の衣服の着脱用 | ・少なくとも片側(勾配が45度超の場合は両側)(700㎜から900㎜の高さ) ・便所の立ち座り用 ・浴槽出入り用 ・玄関の上がりかまち部 ・脱衣室の衣服の着脱用 | ・少なくとも片側(勾配が45度超の場合は両側)(700㎜から900㎜の高さ) ・便所の立ち座り用 ・浴槽出入り用 ・玄関の上がりかまち部 ・脱衣室の衣服の着脱用 |
手すりの設置(転落防止用) | ・バルコニーの床面から1,100㎜以上 ほか ・2階の窓の床面から800㎜以上、3階以上の窓の床面から1,100㎜以上 ・廊下や階段の片側が開放されている場合は、床面から800㎜以上 ほか | 等級5と同じ | 等級5と同じ |
通路及び出入り口の幅 | ・日常生活空間内の通路は850㎜以上(柱の部分は800㎜以上) ・日常生活空間内の出入口は800㎜以上 | ・日常生活空間内の通路は780㎜以上(柱の部分は750㎜以上) ・日常生活空間内の出入口は750㎜以上(浴室の出入口は650㎜以上)※工事を伴わない撤去等による確保を許容 | ・日常生活空間内の通路は780㎜以上(柱の部分は750㎜以上) ・日常生活空間内の出入口は750㎜以上(浴室の出入口は650㎜以上)※軽微な改造による確保を許容 |
寝室・便所・浴室の広さ | ・浴室の短辺が内法で1,400㎜以上、かつ、面積が内法寸法で2.5㎡以上 ・便所の短辺が内法寸法で1,300㎜以上等 ・特定寝室の面積が内法寸法で12㎡以上 | ・浴室の短辺が内法で1,400㎜以上、かつ、面積が内法寸法で2.5㎡以上 ・便所の短辺が内法寸法で1,100㎜以上で、長編が1,300㎜以上等 ・特定寝室の面積が内法寸法で12㎡以上 | ・浴室の短辺が内法で1,300㎜以上、かつ、面積が内法寸法で2.0㎡以上 ・便所の長辺が内法で1,300㎜以上等 ・特定寝室の面積が内法寸法で9㎡以上 |
赤字が等級3と等級4の違いを示しています。
黄色背景が等級4と等級5の違いを示しています。
こうしてみると、等級3と等級4の大きな違いは、寝室、便所、浴室の広さの部分になることが分かります。
ただ、プラン全体に影響を与えるような大きな差ではないように感じられます。
一方で、等級4と等級5の違いはプランに与える影響は大きそうです。
等級5にするなら設計当初に意思決定が必要
等級5にしようとする場合は、住宅全体のプランに与える影響が大きいので、設計の初期段階で意思決定しておく必要があります。
等級3と4の違いはそこまで大きくはないので、将来の生活の想定やプラン全体のバランスから選択してください。
等級3と等級4で迷う場合は、その違いで発生する追加費用は小さいですので、面積的な余裕があれば等級4にしておく方が無難です。
とある北寄りの地方で、建築職の地方公務員として20年以上の勤務経験があります。
住宅の性能に着目した家づくりの重要性についてお伝えしています。
【保有資格:一級建築士・(特定)建築基準適合判定資格者】