住宅性能表示制度を使って「住宅の性能を見える化」するメリットとは

住宅性能表示制度を使って「住宅の性能を見える化」するメリットとは

住宅の性能を客観的に評価する制度として、「住宅性能表示制度」があります。

この制度は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づくもので、平成12年4月1日から始まった制度ですが、一般の認知度は低いです。

その理由は、消費者(建て主)に制度を利用するメリットが認識されていないことに尽きます。

この制度の価値は「住宅の性能が客観的に評価される」ことであり、これにより消費者には次のメリットがあります。

  • 住宅を建てる場合に、消費者(建て主)が指定した性能を有する住宅を建築できる。
  • 住宅を売却する際に、住宅の性能を証明できる。

これらのメリットについて解説する前に、住宅性能表示制度の評価項目について確認していきます。

住宅性能表示制度の評価項目

前述のとおり、住宅性能表示制度は、住宅の性能を客観的に評価する制度です。

住宅性能表示制度で評価する項目は次のものになります。

  1. 構造の安定に関すること
  2. 火災時の安全に関すること
  3. 劣化の軽減に関すること
  4. 維持管理・更新への配慮に関すること
  5. 温熱環境・エネルギー消費量に関すること
  6. 空気環境に関すること
  7. 光・視環境に関すること
  8. 音環境に関すること
  9. 高齢者等への配慮に関すること
  10. 防犯に関すること

これらの項目を評価するために、項目毎に複数の評価指標が設けられています。

順番に確認していきます。

ハゲカケ
ハゲカケ

ここでは、戸建て住宅に関する評価指標のみ確認していきます。

構造の安定に関すること

住宅の構造躯体における外力(地震力、風圧力、積雪)に対する強さについて評価するもので、次の評価指標が設けられています。

評価指標毎に等級が設けられていますが、建築基準法に適合するレベルが等級1となっています。

1-1 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)
極めて稀に発生する地震(数百年に一度発生するかどうかの地震で、震度で言えば6強から7程度のもの)に対して、構造躯体の倒壊、崩壊等のしにくさを評価するもので、等級は1から3まであります。
等級2は等級1で耐えられる地震力の1.25倍等級3では1.5倍の地震力に耐えることができます。
1-2 耐震等級(構造躯体の損傷防止)
稀に発生する地震(数十年に一度発生する地震で、震度で言えば5強程度のもの)に対して、構造躯体の損傷のしにくさを評価するもので、等級は1から3まであります。
等級2は等級1の1.25倍の地震力でも損傷を生じず、等級3は等級1の1.5倍の地震力でも損傷を生じない程度となります。
1-3 その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
免震建築物であるかどうかの評価になります。
免震建築物とは、地盤と建物の間に地震力を伝えない装置(免震層)を組み込んだ建築物です。
免震建築物である場合は、1-1と1-2の評価は行いません。
1-4 耐風等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
暴風に対する構造躯体の崩壊、倒壊等のしにくさ及び損傷のしにくさを評価するもので、等級は1から2までとなっています。
等級2は、極めて稀に(500年に一度程度)発生する暴風の1.2倍の力に対して倒壊や崩壊等をせず、稀に(50年に一度程度)発生する暴風の1.2倍の力に対して損傷しない程度となります。
1-5 耐積雪等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
多雪区域(垂直積雪量が1m以上の地域)のみ評価するもので、大雪に対する構造躯体の崩壊、倒壊等及び損傷のしにくさを評価するものであり、等級は1から2までとなっています。
等級2は、極めて稀に(500年に一度程度)発生する積雪の1.2倍の力に対して倒壊や崩壊等をせず、稀に(50年に一度程度)発生する積雪の1.2倍の力に対して損傷しない程度となります。
1-6 地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法
地盤調査方法が明確かつ適切であり、地盤や杭の許容応力度(地耐力)が適切に設定されていることを評価するものです。
この評価指標に等級はありません。
1-7 既存の構造方法及び形式等
基礎の構造方法や仕様が明確かつ適切であることを評価するものです。
この評価指標に等級はありません。

火災時の安全に関すること

火災が発生した際に、避難のしやすさや、建物自体の火への耐性について評価する項目です。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

2-1 感知警報装置設置等級(自住戸火災時)
住宅内で発生した火災の知覚のしやすさを評価するものです。
感知器と警報装置の設置状況により等級が設けられており、等級1は消防法で定めるレベルになっています。
2-4 脱出対策(火災時)
通常の避難経路が使用できない場合の緊急的な段出のための対策が講じられているか評価するものです。
この評価指標は地上3階建以上の場合に適用されます。
この評価指標に等級はありません。
2-5 耐火等級(延焼の恐れのある部分〈開口部〉)
2-6 耐火等級(延焼の恐れのある部分〈開口部以外〉)
隣家等で発生したした火災による延焼にどれだけ強いかを評価するものです。
対象部分の火災による火炎を遮る時間により等級が決まります。
2-5は等級1から3、2-6は等級1から4まであり、最大等級は60分相当以上となっています。

劣化の軽減に関すること

構造躯体等の劣化対策に関する項目です。

高温多湿な気候である日本は、住宅に使用されている部材の劣化対策は重要です。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

3-1 劣化対策等級
構造躯体に使用する部材について、交換等の大規模な改修工事が必要となるまでの期間について評価します。
等級は1から3まであり、等級1が建築基準法の規定を満たすレベルです。
等級3では、通常想定される自然条件及び維持管理条件の下で3世代(1世代は25年から30年)まで交換等の大規模な改修工事が必要ないような措置が講じられていることを示しており、等級2ではその期間が2世代となります。

維持管理・更新への配慮に関すること

住宅を構成する部材のうち、配管や内外装などは比較的耐用年数が短いことから、点検や更新をしやすくしておく必要があります。

この項目は、給排水、給湯管及びガス管について、維持管理のしやすさを評価する項目です。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

4-1 維持管理対策等級(専用配管)
住宅内の給排水管、給湯管及びガス管の維持管理の容易さを評価します。
等級は1から3まであり、等級3では構造躯体及び仕上げ材に影響を及ぼすことなく配管の点検及び清掃を行うことができ、かつ、構造躯体に影響を及ぼすことなく配管の補修ができることとされています。
等級2は、構造躯体に影響を及ぼすことなく配管の点検及び補修ができることとされています。

温熱環境・エネルギー消費量に関すること

住宅の中で快適に生活する上で、温熱環境は重要です。

夏涼しく、冬暖かく過ごすことは、住宅に求める基本的な性能のひとつです。

また、その性能をいかに少ないエネルギーで実現させるかについても、経済性及び地球環境を考える上でも重要です。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

5-1 温熱環境(断熱等性能等級)
住宅の構造躯体の断熱性能を評価します。
等級は1から7まであり、断熱性能が高い(等級の数字が大きい)ほど、少ないエネルギーで適切な温熱環境を実現することが可能になります。

令和4年10月1日から等級6・等級7が新設されました

令和4年10月1日から、住宅のさらなる省エネ化を図るため、等級6(HEAT20 G2相当)、等級7(HEAT20 G3相当)が新設されました。

5-2 エネルギー消費量
住宅で使用する電気、灯油ガスなどのエネルギー消費量について評価します。
等級は、1と4から6まであり、等級の数字が大きいほど、エネルギー消費量は少ないことを意味しています。
省エネ性能についてこちらも併せてご覧ください。

空気環境に関すること

いわゆるシックハウス対策や水蒸気の排出に係る項目です。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

6-1 ホルムアルデヒド対策(内装及び天井裏等)
居室の内容の仕上げ等に使用する材料を表示するとともに、ホルムアルデヒドを発散する可能性のある材料である場合はその程度について等級1から3により評価(等級が大きい方が安全)します。
6-2 換気対策
室内の水蒸気や化学物質を屋外に排出するための換気設備について表示します。
なお、この評価指標に等級はありません。
6-3 室内空気の化学物質の濃度等
住宅内の化学物質の濃度を実際に測定し、その濃度及び測定方法を表示します。

光・視環境に関すること

外部からの採光は、住宅内の作業のしやすさに関係する他、住宅内で生活する人の心身へにも影響します。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

7-1 単純開口率
居室の外壁及び屋根に設けられた開口部の面積の床面積に対する割合を表示します。
この評価指標に等級はありません。
7-2 方位別開口比
居室の外壁及び屋根に設けられた開口部の方位別(東西南北及び真上)の比率を表示します。
この評価指標に等級はありません。

音環境に関すること

主に共同住宅の場合、生活音に関するトラブルの発生が多い傾向にあります。

一戸建て住宅の場合は、最も音を透過する開口部について次の評価指標が設けられています。

8-4 透過損失等級(外壁開口部)
居室の外壁に設けられた開口部に使用するサッシやドアの空気伝搬音の遮断の程度を方位別に表示します。
等級は1から3まであり、等級3は透過損失の平均値が25dB以上、等級2は20dB以上となっています。

高齢者等への配慮に関すること

いわゆるバリアフリー性能に関する項目であり、次の評価指標が設けられています。

9-1 高齢者等配慮対策等級(専用部分)
住宅内における高齢者等の移動のしやすさ、生活(入浴、排せつ)の負担軽減、介助のしやすさを総合的に評価します。
等級は1から5まであり、等級3以上は一定の介助のしやすさに配慮されています。

防犯に関すること

近年は、核家族化、共働き世帯の増加により、住宅内に人がいない時間帯が多くなっており、防犯対策への意識が高まっています。

この項目では、次の評価指標が設けられています。

10-1 開口部の侵入防止対策
主な侵入経路となる開口部の防犯対策について表示します。
この評価指標に等級はありません。
ハゲカケ
ハゲカケ

もっと詳しく知りたいという方は、次のサイトをご参照ください。

一般社団法人住宅性能評価・表示協会

住宅の品質確保の促進等に関する法律(国土交通省)

住宅性能表示制度を活用するメリット

住宅性能表示制度の評価項目は、住宅に必要とされる性能がある程度網羅されています。

それでは、冒頭で挙げた住宅性能表示制度を活用するメリットについて順番に解説していきます。

  1. 住宅を建てる場合に、消費者(建て主)が指定した性能を有する住宅を建築できる。
  2. 住宅を売却する際に、住宅の性能を証明できる。

住宅を建てる場合に、消費者(建て主)が指定した性能を有する住宅を建築できる

住宅の性能は目に見えないものです。

また、一般の消費者(建て主)にとって、住宅の性能を施工者等に詳細に伝えるのは難しい場合が多いです。

さらに、施工者に伝えることができたからと言って、その性能が担保されたかどうか確認することは困難です。

これらの課題を解決するためのツールとして住宅性能表示制度を活用することができます。

住宅性能表示制度の活用の流れは次のとおりです。

  1. 建て主は、住宅性能表示制度の評価指標から、建てようとする住宅の性能を選定し施工者(設計者)に伝えると共に、設計の内容について登録住宅性能評価機関から評価を受けるよう依頼する。
  2. 施工者(設計者)は、建て主の要望に応じて設計を行い、登録住宅性能評価機関に申請し評価を受ける(設計住宅性能評価書を取得する)。
  3. 建て主及び施工者は、工事請負契約書に設計住宅性能評価書やその写しを添付することで、評価書の内容に適合する住宅の建築工事を契約する。
  4. 住宅完成後、必要に応じて、設計内容通りに工事が完了したことについて登録住宅性能評価機関に申請し評価を受ける(建設住宅性能評価書を取得する)。

ここでのポイントは、次の2点です。

  • 第三者機関である登録住宅性能評価機関の評価を受ける
  • 工事請負契約書に設計住宅性能評価書又はその写しを添付する

単に施工者(設計者)に依頼しただけでは、本当にその性能が確保されているか分からないので、第三者機関の評価を受けることにより、それが担保されることになります。

また、設計内容が確実に工事に反映されるよう、設計住宅性能評価書又はその写しを工事請負契約書に添付することで、設計住宅性能評価書の内容が契約事項として担保されることになります。

なお、住宅完成後の建設住宅性能評価書の取得までしておけば、工事が設計通りに完成したことが証明されるので、より確実性が増します。

住宅を売却する際に、住宅の性能を証明できる

重ねてになりますが、住宅の性能は目に見えません。

ですが、住宅性能評価書を取得していれば、その住宅の性能を証明することができます。

これにより、住宅を売却しようとする場合に、他の住宅との差別化を図ることができます。

中古住宅の購入希望者は、その住宅がどのような性能か判断することが困難であり、購入に際して懸念している大きな事柄のひとつです。

よって、住宅性能評価書を取得しておくことにより、売却しやすくなる可能性があり、また性能が見える化されていることにより売却価格にも有利に働くことが想定されます。

まとめ

住宅性能表示制度は、住宅の性能を客観的な指標を使って見える化し、第三者がそれを評価することでその性能が担保され、建て主にとっては、性能が担保された住宅の建築が可能になります。

また、売却する場合でも、その住宅の性能を証明することができますので、売主にとっても買主にとってもメリットが大きい制度です。

住宅は、これまでのように1世代で建て替えるのではなく、数世代に渡って住み継がれるものになっていきます。

そのような流れの中で、住宅性能表示制度を活用して住宅の性能を見える化しておくことは、今後益々重要になっていくでしょう。