これから住宅を新築しようとするのであれば、できるだけ省エネ性能を向上させておくべきです。
その省エネ性能の基本となるのが、住宅の断熱性能です。
住宅の断熱性能とは、「住宅の中と外の熱の移動のしにくさ」であり、次の事項で決まります。
- 屋根又は天井、外壁、床又は基礎に設置する断熱材の種類と厚さ
- 窓やドアなどの開口部の仕様
住宅の中と外の熱の移動の多くは窓やドアから行われます。
よって、開口部は、より断熱性能の高い仕様にすることが重要です。
開口部については、基本的にメーカーの製品から選択しますが、断熱性能が同じであれば製品の違いで性能が変わることはありません。
一方で、断熱材の場合は、種類によってその性能が異なります。
また、断熱材には、断熱性能だけではないもう一つの側面があります。
今回は、断熱材の主な種類とその特徴について解説していきます。
なお、ハウスメーカーの場合は仕様が決まっていますので、多くの場合断熱材を選ぶことはできません。
地域工務店などで家を建てる場合でも、工務店によって得意とする断熱工法がありますので、事前に確認しておきましょう。
断熱材が「断熱するしくみ」
断熱材の種類とその特徴についてご紹介する前に、断熱材がなぜ断熱するのかについて解説します。
断熱とは、住宅の外と中の熱の移動を少なくすることです。
原理としては、私たちが冬に重ね着をしたり、ダウンジャケットなどを着ることと同じです。
私たちは、重ね着やダウンジャケットを着ることで、空気の層を外気との間に設けています。
その空気の層が、体温が外に逃げることを、そして外気が体に触れることを防いでいます。
断熱材も同じで、断熱材は多くの空気を含むように作られています。
断熱材に含まれる空気が熱の移動を妨げているのです。
では、なぜ空気がそのような役割を担えるのかというと、空気が熱を伝え難いからです。
熱の伝えやすさは、熱伝導率という値で表されます。
鉄 | 木 | 水 | 空気 | |
熱伝導率(W/m・K) | 83.5 | 0.2 | 0.6 | 0.02 |
熱伝導率の値が低いほど、熱を伝え難いということになります。
空気は、住宅に使われる代表的な素材である鉄や木に比べて、圧倒的に熱を伝え難い物質であることがお分かりいただけると思います。
断熱材の天敵は「水」
断熱材は外壁や屋根(又は天井)に設置することで、家の中と外の熱の移動を防いでいます。
断熱材は、乾いた状態であればその効果を発揮しますが、水に濡れてしまうとその効果は大幅に低下してしまいます。
断熱材は空気を含むことによって熱の移動を防いでいることは前述しましたが、水に濡れてしまうとその空気が水に入れ替わってしまいます。
熱伝導率の表を見て頂くと分かる通り、水は、空気の30倍も熱を伝えやすいので、水に濡れると断熱材の効果は大きく下がります。
このことから、断熱材を水に濡らさないようにすることが重要になります。
断熱材が水に濡れる原因
断熱材が水に濡れてしまう原因は2つあります。
- 家の外から濡れる
- 家の中から濡れる
それでは、順番に見ていきましょう。
家の外から濡れる
断熱材は、外壁の中に設置されますので、断熱材の外には外壁材が設置されています。
外壁材は、施工の関係上、ある程度の大きさのものを組み合わせて設置されます。
通常、継ぎ目はシーリング等で水の侵入を防止するのですが、シーリングは劣化します。
また、外壁材自体も劣化によりひび割れなどを生じます。
これらの劣化部分などから雨水などが外壁の中に侵入し、断熱材が濡れてしまいます。
家の中から濡れる
家の外から濡れるというのは、一般にイメージしやすいと思います。
一方で、家の中から濡れるというのはどういうことでしょうか。
家の中から断熱材が濡れてしまう原因は、水蒸気です。
私たちは、生活する上で多くの水蒸気を発生させています。
調理、洗濯、入浴など、家の中で水を使用する場面は多くあります。
また、何もしていなくても人は体から水蒸気を発生させています。
これらの水蒸気が壁などの中に入って行って、断熱材を濡らしてしまいます。
断熱材を天敵から守るために
断熱材は、家の外からも中からも天敵に狙われています。
住宅の断熱性能を維持するためには、家の外からの水の侵入と中からの水の侵入を防ぐ必要があります。
そこで、昨今のスタンダードな手法として、外壁の内側に「防水シート」を張り、外側に「透湿防水シート」を張る施工がなされています。
ここで注目して欲しいのが、内側と外側でシートの種類が違うということです。
内側の「防水シート」は、水も水蒸気も防ぐシートです。
一方で、外側の「透湿防水シート」は、水の侵入は防ぎますが水蒸気は出入りできるシートです。
未来永劫完全に壁の中に水や水蒸気の侵入を防ぐことができるのであれば、どちらも防水シートを施工すればいいのですが、住宅の構造材である木にも水分は含まれていますし、防水シートを隙間なく施工することは困難ですので、壁の中に完全に水蒸気の流入を防ぐことは不可能です。
よって、壁の中に入ってきた水蒸気は外に逃がす必要があるので、外側は水蒸気の出入りが自由な「透湿防水シート」が使われています。
充填断熱か外張断熱か
断熱について話をしていると、「充填断熱と外張断熱とどちらがいいか」聞かれることがあります。
結論から言うと…
どっちでもいい
断熱性能はUA値という数値で決まりますので、目標とする数値になるのであればどちらでもいいです。
さらに言うと、充填断熱に加えて、その外側に付加断熱をするという、充填断熱+外張断熱のような工法もあります。
外壁の中に充填できる断熱材の量は柱の太さ以上にはできません(一般的な木造住宅の柱の太さは105㎜)から、寒冷地では充填断熱に加えて付加断熱を行うことが一般的になっています。
ご参考までに、充填断熱と外張断熱の特徴をまとめておきます。
充填断熱の特徴
充填断熱とは、壁の中の軸組の間に断熱材を充填する工法です。
主に繊維系の断熱材をはめ込む方法が用いられますが、吹き付けや吹込みによる断熱材が施工されることもあります。
壁の中には、電気配線やコンセントなどが設置されますので、その部分に断熱欠損が生じないよう、隙間なく施工することが重要になります。
外張断熱の特徴
外張断熱とは、壁の外側に断熱材を施工する工法です。
主にボード状の断熱材が用いられますが、繊維系の断熱材が用いられることもあります。
壁の外側に断熱材を施工するので、断熱材がすっぽりと家を覆う形になり、断熱欠損が生じにくくなります。
断熱のしくみについてご理解頂けたでしょうか。
断熱材の種類については、こちらをご覧ください。
とある北寄りの地方で、建築職の地方公務員として20年以上の勤務経験があります。
住宅の性能に着目した家づくりの重要性についてお伝えしています。
【保有資格:一級建築士・(特定)建築基準適合判定資格者】