以前の記事で、太陽光発電設備の設置と断熱性能の向上(高断熱化)は、どちらも省エネルギー対策としては有効ですが、居住者が享受するメリットに違いがあることを説明しました。
エネルギー使用量の削減 (=光熱費の削減) | 生活の質の向上 (快適性の向上) | |
太陽光発電設備の設置 | ||
断熱性能の向上 |
それでは、太陽光発電設備の設置と断熱性能の向上は、どちらがエネルギー使用量の削減効果が大きいのでしょうか。
「HEAT20 設計ガイドブック2021」を基に解説していきます。
HEAT20や記事内で記載している基準については、こちらの記事をご覧ください。
エネルギー使用量の削減効果は地域によって違う
「HEAT20 設計ガイドブック2021」では、地域別にモデル住宅におけるエネルギー使用量の比較を行っています。
それを見ると、現行の建築物省エネ法で規定する断熱性能(断熱等性能等級4)で標準的な設備が設置された住宅に太陽光発電設備を設置した場合と、HEAT20のG1・G2・G3水準の住宅に省エネルギー設備を導入した場合を比較すると、日本のどの地域においても、後者の方がエネルギー使用量の削減効果が大きくなっています。
一方で、省エネルギー設備を導入した断熱等性能等級4の住宅に太陽光発電設備を導入した住宅と、省エネルギー設備を導入したG1・G2・G3水準の住宅とを直接比較したデータは記載されていません。
ただ、暖房及び冷房以外の設備に係エネルギー使用量は断熱性能とは関係ありませんので、それを踏まえてグラフを補正すると、地域によって状況が変わることが分かります。
ここでは、3地域(代表都市:盛岡)と6地域(代表都市:東京)を比較してみます。
3地域(代表都市:盛岡)でのエネルギー使用量の削減効果
3地域の場合は、「省エネ基準レベルの断熱+省エネ設備+太陽光」の住宅と、「G1・G2・G3水準の断熱+省エネ設備」の住宅では、エネルギー使用量にほとんど変わりがないことが分かります。
6地域(代表都市:東京)でのエネルギー使用量の削減効果
6地域の場合は、3地域と比較して暖房に必要なエネルギー使用量が少ないことから、「省エネ基準レベルの断熱+省エネ設備+太陽光」の住宅の場合の方が、「G1・G2・G3水準の断熱+省エネ設備」の住宅よりもエネルギー使用量の削減効果が大きいことが分かります。
ここでは、代表として3地域と6地域をご紹介しましたが、1から3地域は、「省エネ基準レベルの断熱+省エネ設備+太陽光」の住宅と「G1・G2・G3水準の断熱+省エネ設備」の住宅ではエネルギー使用量にほとんど変わりがなく、4から7地域は「省エネ基準レベルの断熱+省エネ設備+太陽光」の住宅の場合の方がエネルギー使用量の面では優位となっています。
1~3地域は太陽光発電よりも断熱性能の強化を優先した方がいい
1~3地域については、「省エネ基準レベルの断熱+省エネ設備+太陽光」の住宅と、「G1・G2・G3水準の断熱+省エネ設備」の住宅では、エネルギー使用量にほとんど変わりがないことが分かりました。
じゃあ、太陽光発電設備を搭載してもいいにゃ?
ちょっと待って!
確かに、エネルギー使用量だけで見れば効果は同じです。
ただ、断熱性能の強化のメリットはエネルギー使用量の削減だけではないことは冒頭でご紹介しました。
断熱性能の強化には、生活の質の向上というもう一つのメリットがあります。
断熱性能の強化を図ることにより、住宅内の各室での温度差が軽減されます。
特に冬の寒さが厳しい1~3地域においては、その効果は大きいものになります。
よって、1~3地域の場合は、エネルギー使用量の削減効果が同じなのであれば、断熱性能の強化を優先することをお勧めします。
4~7地域は経済性と快適性のどちらを取るか
4~7地域では、「省エネ基準レベルの断熱+省エネ設備+太陽光」の住宅の場合の方が、「G1・G2・G3水準の断熱+省エネ設備」の住宅よりもエネルギー使用量の削減効果が大きいことが分かりました。
よって、経済性と快適性を天秤にかけて選択する形になります。
もう一つの考え方として、断熱性能をZEH基準まで上げた上で太陽光発電設備を導入することも検討の余地があるのではないでしょうか。
ZEHとは、現行の省エネ基準よりも高い断熱性能を確保し、省エネ設備を導入した上で、太陽光発電などの創エネルギー設備により実質エネルギー消費量を0にする住宅です。
ZEH基準の断熱性能は現行の省エネ基準よりも高いですから、快適性を向上させつつ太陽光発電設備の導入で経済性も高めることが可能になります。
まとめ
- 1~3地域は、太陽光発電よりも断熱性の向上を重視すべし。
- 4~7地域は、経済性(太陽光発電)と快適性(断熱性強化)を天秤にかけ、選択すべし。折衷案として断熱性能をZEH基準とした上で太陽光発電を導入することも検討の余地あり。
とある北寄りの地方で、建築職の地方公務員として20年以上の勤務経験があります。
住宅の性能に着目した家づくりの重要性についてお伝えしています。
【保有資格:一級建築士・(特定)建築基準適合判定資格者】